Hexacentrus fuscipes
アシグロウマオイ
南西諸島
6月中旬~10月上旬
アシグロウマオイは、南西諸島のススキ草原に生息するウマオイの一種である。褐色の体に黒い脚をもち、オスは前翅が風船のように大きく膨らんでいるのが特徴だ。この膨らんだ前翅は、鳴き声を増幅させる役割を担っていると考えられている。オスは「ギィギィギィギィ…」という前奏の後、「ギュルルルル」と独特の鳴き声を発する。一方、メスは腹端をやや超える程度の短翅型が一般的であるが、長翅型も観察されることがある。ウマオイの中では小型の種類であり、ハヤシノウマオイよりも小さいものの、産地によって体長にばらつきが見られる。夜行性で、日中はススキの株などに隠れており、活動するのは日が暮れてからである。多くは高茎のイネ科草原の奥深くで生活しており、その姿はなかなか目にすることができない。特にメスは発見が困難であるとされている。警戒心が強く、ライトを当てたり、近づいたりすると、素早く葉の裏や藪の奥へと逃げていく。食性は肉食傾向の強い雑食性で、小さな昆虫を捕食したり、死骸を食べたりするほか、植物の蜜も好んで摂取するようだ。
興味深いことに、小笠原諸島の母島にはアシグロウマオイとよく似たオガサワラウマオイが生息しており、2020年に新種として発表されている(Ichikawa et al. 2020)。この近縁種との比較も、アシグロウマオイ研究において重要な要素となるだろう。
成虫の姿
オス
メス
生態写真
アシグロウマオイ初齢幼虫(飼育下)
孵化して間もない幼虫。体色が薄く透明感がある。
アシグロウマオイ中齢幼虫(飼育下)
枯れたイネ科の茎に脚を伸ばしてピタリと張り付き、身を隠している。
アシグロウマオイ終齢幼虫
幼虫のうちは赤みがなく、より地味な色合い。成長に伴い共食いも起こりやすくなる。
アシグロウマオイ♂
独特な形状の前翅をもつ。葉の裏や、ススキの茎で頭を下にして鳴くことが多い。
アシグロウマオイ♀
メスの翅は膨らまない。ススキの株からなかなか出てこないため、オスと比べると見かける頻度は少ない。
アシグロウマオイ♀(長翅型)
メスは翅の長さには個体差があり、短翅型や長翅型の中でも違いが見られる。写真の個体は特に長い。
食事中のアシグロウマオイ
アワフキムシを捕らえて食べるアシグロウマオイ。脚の発達した棘により獲物を逃がさない。
アシグロウマオイの卵
産み付けられたばかりはオレンジ色だが、空気に触れて表面が乾燥すると白くなる。